熊手かき

読書好きの日常

生涯忘れないたったひとつの命

 たっくんがお腹にやってきた時、たっくんの他にもう1人いた。双子だったんです。でも心拍弱くなっていると言われて、結局1人だけ産まれた。わたしは産まれなかったもう1人の子が忘れられない。ただでさえ不妊症の状態で出産できたのが奇跡なのに双子だったなんて。義父の墓前で「もう1人の子と仲良くやっていますか?」と必ず聞いている。たとえ胎児だったとしてもいたということは事実だから。

 旦那は言う。いつか、たっくんの中からピノコのようにもう1人が現れるかもしれないと。そうやって2人して笑う。もう1人妊娠したら、その子が帰ってくる気がする。だから、もう諦めようと思っても諦めきれない。

 今日はカウンセリングだった。その子の話になって、涙が止まらなくなった。悲しいよ、わたしのところに来て欲しかったよ。2人で来て欲しかったよ。力尽きてしまったあの子がいない。それがどんなに切ないことか。どんなに辛いことか。「わたしもちゃんと忘れてませんよ」とカウンセラーの先生は言った。確かにいたのだと言ってくれた。産まれて欲しかった。その後がどんなに大変だったとしても、産まれて欲しかった。

 不妊症だったから、流産もした。その子のことは吹っ切れた。最後にディズニーランドに行ってさよならした。でも、あの子のことはどうしても忘れられない。今も心の中で産まれて欲しかったと叫んでる。会いたかったと叫んでる。この気持ちはきっと生涯忘れないんだろう。わたしの中でずっとシクシクと痛むだろう。

 たっくんがもう少し大きくなったら、あの子の話をしようと思う。一緒にいた命の話。誰よりもそばでその心音を聞いていたのだから。誰よりもそばにいたのだから。確かにいたあの子のことを。たっくんはなんて言うだろう?