熊手かき

読書好きの日常

いつまでも忘れない

  書店の文庫売り場で平積みされていた本。背表紙の簡易説明に大いに惹かれたけれど、今はまず図書館で検索して買わずに読みたい!と貧乏性が飛び出てきた。子供も生まれるしね…。著者は姫川シリーズの誉田哲也。期待しながら読書開始です!

 ある男が嬰児殺しで裁判を待っている。口を全く開かない男、曽根崎栄司は何故自分が育てていた嬰児を殺したのか。弁護士が口にしたあるキーワードから始まる物語。

  興信所を営む曽根崎の元にとある少女が依頼に現れる。お金も情報もないがある2人の男を探して欲しい。少女は自分を曽根崎と彼が愛した石本真弓の娘だという。母親の日記を読んだという少女は2人しか知らない事実を語り始める。真弓の面影を探しながら少女ー民代を見つめる曽根崎。彼は日記を報酬に依頼を受ける事にする。いま世間ではOL連続殺人事件が注目を集めていた。民代が曽根崎に依頼した2人の男はその事件の関係者。「必ず私が次の犯行を止める」民代は何故それを知り、固い決意を持っているのか?曽根崎は2人の男を見つけ出せるのか?そしてさらなる悲劇を止められるのか?たくさんの謎の欠片から紡ぎ出される愛の物語。

 さて、読了後の感想はひとこと面白かった。厚い本でもグイグイ読めたし、キーワードが本当にじわじわきいてきて「あー!」と唸らされた。でもこの本、設定が設定だけに御都合主義に走りかねないよな〜というのも正直なところ。この設定、物語上重要なネタバレなので書けませんが、わかった瞬間一瞬萎えたのもまた真実です。それでも読ませる誉田哲也は凄いけど、この設定だからの曽根崎の犯行だけど、うーん…。面白いのに乗り切れなかった感はあります。途中民代がある人物に全部知っていると詰め寄るシーンは、そしてそのあとに続くシーンはホラー調です。あれ?ミステリーのはずじゃと思うくらい。設定を知っていればごくごく自然なこのシーンもドキドキが止まりませんでした。

 この本は願い、愛に溢れた本でした。深い愛の物語というか。ああいう設定故、愛し愛されるということがより深く純粋になる。タイトルも読了後に読むと深みがが増します。曽根崎は民代との絆を深めたかったのかな〜。それとも真弓との娘だったから愛したのか。私は曽根崎の中で民代を深く愛する部分が大きくなったんだろうなって感じました。もちろん、民代がああいう状況に陥った(ネタバレなので内緒)という現実もあるだろうけど、目の前で生きている人の方が愛おしいものなのかもしれない。では愛された側は?幸福であると同時に深い悲しみを抱いていたんでしょうね。だから民代はずっと忘れなかった、絶対に許さないと。唯一の救いはやっぱりその幸福の形を最後に見せてもらえたことかな。出来れば曽根崎の身に起きて欲しかったけれど、それじゃこの物語は成立しないものね、残念。

 誉田哲也の読ませる力とタイトルのストレートな切なさに脱帽の一冊でした。

あなたが愛した記憶 (集英社文庫)

あなたが愛した記憶 (集英社文庫)