熊手かき

読書好きの日常

書を読むということ 「記憶の隠れ家」

 読了しました。表題作と同じ話はなく、それぞれの話の中に過去の情景、記憶が見え隠れする家が出てくる話を集めた短編集です。

 幼い時、まるで本当の家族のように接してくれた友人との再会が奇怪な現実を見せつける「刺繍の家」。秀才の兄と何もしなくても成績の良く家族との折り合いもいまいち悪い妹のある老人の記憶「獣の家」。死んだ継母の遺品整理から実母の死の真実が明らかになる「封印の家」。自殺した妻が愛した中学時代の友に再会し、その自殺の裏に隠された真実を垣間見る「花ざかりの家」。妹のお見舞いに来た元教師の姉が教え子に再会することから明らかになるある家族の真実を描く「緋色の家」。夫に先立たれたが、彼には真に愛した人がいる。その愛人の失踪と夫の謎に迫る「野ざらしの家」の6編です。

 ゾッとしたのは刺繍の家と緋色の家でした。人の精神の弱さというか奇天烈さを思い知らされた。でも、多くの作品が連れ合いに裏切られる話なのでモヤモヤする。裏切られても相手を忘れられない人間ばかり。それはその連れ合いに死なれたからかもしれないけど、人間はそこまで寛容になれるのかな。ちなみに1話だけされた側の自死があります。わたしにとってはその方が自然な気がするんだけど。青いんですかね。それともわたしも忘れないのだろうか。

 人は死んでも家は残る。家は住人の記憶を刻み込み朽ち果てるまで存在する。記憶を隠した家はただあるだけで、解釈はその家に関わる人数だけ生まれる。絡まる糸のようになりかねないその解釈を解きほぐす必要なんてない。そのまま放置する方がいいこともある。でもその家がある限り記憶は無くならない。残酷なのか幸せなのか。ちょっと考えさせられる作品でした。

 

記憶の隠れ家 (講談社文庫)

記憶の隠れ家 (講談社文庫)