熊手かき

読書好きの日常

視覚に訴えるもの 「女が眠る時」

 観に行ってきました。最初入った時誰もいなくてビビる。劇場は小さかったけど、ここで1人で見るのは怖いよ〜と本気で思ってしまいました。幸いなことに座ってたらポツポツ人がやってきて一安心。年齢層は中年しかいなかった。私がもしかしたら最年少だったかも。

 さて内容。ネタバレとかも考えたのですが、この作品わかりやすい作品じゃないし、観た人それぞれの解釈が生まれて当たり前な作品なので自由に書きます。もし、これから観る人は…一応ご注意を。

 リゾートホテルである夫婦が出会った親子ほども年の違う男と女。夫はこの2人に興味を抱きのめり込んでいくが、それが狂気の始まりだった…。

 賛否両論ある作品ですが、私は好きです。佐原の顔が何よりよかった。喜びも悲しみも怒りも淡々としていて。その逆に美樹の静かな激情がまるで佐原のそれと比例しているようで。プールに佐原が投げた靴下がまるで血を吐くみたいに沈みこんでいくシーンは本当に綺麗だなと思いました。健二は佐原と美樹の間にある天秤みたいですね。どちらも理解できないからのめり込んで2人の感情でグラグラになっていく。彼がギリギリとどまれたのは小説家としての才能ゆえかもしれない。人を遠くに見る目が彼が崩れる前に引き戻した。あるいは綾の存在か?綾がいなければ健二は完全に狂気に沈み込んでいたんじゃないかな。綾は徹頭徹尾現実主義者っぽかったし。そう考えると綾は小説家健二の象徴なのかも。だからこそ、綾と佐原が一緒にいるシーンあたりから健二の様子がまた一段とおかしくなる。もちろん、美樹の不在も大きかったとは思う。天秤になる必要がなくなったから。

 それにしても、忽那汐里は正直何とも思っていない女優さんでしたが、ちょっと見直しました。静かに眠るシーンの官能的なこと。唇がとても綺麗でこの唇だけでも撮る価値がある気がする。愛というものを知っているのか知らないのか。そういう危うさもあるし、どことなくまだ大人になりきれていない表情が佐原の絶望感に拍車をかけていくようでたまらない。もう少し年齢が上なら佐原は殺そうとまで追い詰められなかった気がします。幼さが垣間見えるからこそかなと。

 飯塚もいい味出してましたね。あの人のおかげで佐原と美樹の関係が少しだけ描かれる。この少しが絶妙で。これ以上出したら途端につまらなくなるギリギリ。タイツとストッキングの下りも入り口としてはちょうどよかった。それにアラフォーデビューの足しになりました。ありがとうございます。

 この作品を雨の日に観られたのは幸せでした。どこかに2組の男女がいるようで思わず窓の外を見てしまう。今読んでる本終わったら早速原作本読んでみます。そちらも楽しみ!