熊手かき

読書好きの日常

視覚に訴えるもの 「さざなみ」

 念願叶って観てきました!シャーロット・ランプリング初体験。品があって、でも強さと嫉妬を垣間見せる彼女の演技は素敵でした。邦題の「さざなみ」はうまい選択ですね。原題より核心をついているのに情緒がある。 

 結婚45周年記念のパーティを数日後に控えた夫婦のもとに1通の手紙が届く。夫が結婚前に付き合っていた女性が見つかったという連絡。女はスイスの氷河の中で昔の姿のまま眠っている。妻の心に夫のフッともらした一言が突き刺さる。小さな傷のはずだった。しかし、日をおうごとに妻の傷は深くなっていく。

 わたし、1番大事な場面で見るところを間違えていました。夫が結婚指輪の話をしたからそればかり観ていたけれど、観るべきところはそれじゃなかった。観ている時から疑問符だらけのそのシーン、ネタバレサイトで確認したらガーンですよ。わたし気づかなかった。という訳で、もう1回観たい気持ちがムクムクと浮かんできました。ブルーレイとか買ってしまおうかしら。

 45年という年月は長い。もし、もし彼女が普通に亡くなっていたらまた違う結果になったんじゃないかと思うんです。あの頃と同じ若さと美しさを保っている。それは45年という月日を複雑な時間に変えてしまう。確かにあるはずの信頼が、絆が、歪んでいく。変わってしまった自分、変わっていった夫婦。その間に得たものもあれば失ったものもある。同じ時間を歩んだという現実が失ったものの価値を薄めていくはず。だが夫は歩んだ時間より前に囚われる。彼にとっては単なる事実の羅列だったとしても、妻にとっては時間を削り取られる行為。そして残るのは失ったもののかけら。象徴的なものは撮らなかった写真かな。45年という時間を確かに存在させるもの。友人たちが撮っていた写真はあくまで夫婦の表面をなぞるだけ。今、夫婦の間に流れる微妙な空気を映し出せないのと同じ。

 わたしはこの映画を旦那に観に行くなと言われた。何故なら、旦那はわたしの前に結婚したい人がいたから。わざわざモヤモヤしに行かなくてもいいじゃないかと。その人と結婚していたら今の時間はない。今もどこかで生きているその人と、旦那が会わないとは限らない。結婚をし、子供を産んでもそんな存在に複雑な心境になる。聞いてしまうのだ、聞かずにはいられないんだ。その人と何もなければ結婚していたかと。それはパンドラの箱なのに、開けてしまうんだ。何故って怖いから、聞くのも聞かないのも怖いから。わたしが妻のようにならないのは旦那が今、現実を見ているから。でも、いつ過去を振り返るかしれない。その時、わたしはどうなるだろう。この映画を観てすごく考えさせられた。

 静かで、だけど強い意志のある映画でした。シャーロット・ランプリングの他の作品も見てみたいな。