熊手かき

読書好きの日常

書を読むということ 「ブレードランナーの未来世紀」

 映画はどこまでも深く読める。この本を読んで心底そう思いました。私は表層しか観ていない。表層しか観られない。知識の差はどうしようもないけれど、埋める努力は必要なのかもしれない。勿論、知識があるから評論家なのであって、一般市民にそこまで求める必要があるかはまた別問題ですけれど。

 この本は基本1本の映画を掘り下げる形ではありますが、1人の監督を掘り下げるところもあります。その関係で、同じ監督の違う作品に深く言及しているところもあるので、ここでは監督名をご紹介しようと思います。デヴィッド・クローネンバーグジョー・ダンテジェームズ・キャメロンテリー・ギリアムオリヴァー・ストーンデヴィッド・リンチポール・ヴァーホーヴェンリドリー・スコットの8人です。彼らの主要作品に監督のバックボーンがどれほど反映されているのか、どんな思いで作品が生み出されたのか。丁寧に書かれた作品です。

 実際に観た映画は3作品だけなのです。ターミネータープラトーンは食指が動かなくて…。でも、とても興味深く読めました。はっきり言うと全作品観たくなった。1つの作品にこれだけの情熱が溢れているなんて。また、これだけのモチーフが隠されているなんて思いもよらなかった。特にロボコップがキリストの読み替えだなんて想像さえしなかったから驚きました。それにブレードランナー。これはディレクターズカット版しか観たことがないし、初見ではわからなかったことが多かったのでネットでかなり調べたんです。でも、この本にはそれを凌駕する深みのある説明があって、私が知りたいと思っていたことなんて些細なことなんだなって思い知らされました。失楽園がこんなところに出てくるなんて全く思わなかった。私なんて本当にペラいなと。

 本当に映画を観るということは本は勿論のこと、絵画や歴史、宗教にまで知識を広げなければならない。そんなことはわかっていたけれど、こう実体験になってしまうと凹んでしまう。私にはそこまでの深読みが必要なのかと聞かれると迷うけれど、世界が無限に広がる様を見るとやっぱりある程度の知識は欲しいなと思ってしまう。結局何をどこまで感じたいかではあるのでしょうね。言葉にならなくても感情を震わせたいだけならここまで深読みしなくてもいい。それだけでも十分幸せな気分になれるから。難しいです。

 ただ一つだけ言えること。それは私は私の感じ方を大事にしたいということ。そう考えると有り余る知識は場合によっては邪魔になるかもしれない。批評家になりたいわけではなく、自分の感じたことをこんな感じ方をした人もいるんだと発信したいだけだから。だとしたら私に必要なのはもっと感受性を育てることなのかもしれないですね。そのために本を読んで映画を観る。そしてたまにこうやって深く教えてくれる本を読んで再度映画を観てみる。そんな楽しみがあってもいいですよね。