熊手かき

読書好きの日常

書を読むということ 「トマト・ゲーム」

 皆川博子作品は実はそんなに読んだことがない。これで2冊目。1冊目が強烈すぎてなかなか手に取れなかった。「獣舎のスキャット」と「蜜の犬」が読みたくて読んだ本だから、実際は1冊目が読みたかったのかもしれない。

 米軍基地で知り合った2人の男女。久しぶりの再会と2人の少年の喧嘩が起きたその日、男女はバイクの危険なレース、トマト・ゲームで決着をつけることを勧めた。その裏で2人は賭けをするが…表題作「トマト・ゲーム」。少女が引っ越す同級生から譲り受けたミミズク。少女は部屋を誰も入れない状態にして1人ミミズクと暮らし始める。だが、ミミズクは少しずつ元気がなくなり…「アルカディアの夏」。少年院に入った弟と彼の面会はもとより家事、仕事の手伝いまでこなす姉。姉は弟に歪な愛情を持っていたが、ある日弟の部屋に仕掛けた盗聴器から聞こえてきた話から残酷な復讐を思いつく…「獣舎のスキャット」。平凡な少年が毎朝見つめるドーベルマンのような青年。彼は少年とともに学校に通う少女に焦がれていた。ある日、その少女に不幸な出来事が襲いかかり…「蜜の犬」。ある男が見たブルーフィルムに映っていたデスマスク。男のもとにその出所を知りたいという奇妙な電話がかかってくる。その電話に興味をそそられた男は1人、そのデスマスクを追っていくが…「アイデースの館」。女が雇った家政婦は少女の頃一時期交流があった同級生だった。同級生がやってくるようになってから、女は少しずつ精神的に不調に陥っていく…「遠い炎」。内科医の絢子のもとに大学生の甥っ子が訪れる。フェンシング仲間が怪我をしたのだ。その仲間は贅指だった。絢子は何故かその彼のことが忘れられず、ふと大学に足を運んでしまい…「花冠と氷の剣」。友人を殺害した少年。自殺として処理されたがそこまで追い詰めたのはとある少年ではないかと校内中に広まり、その少年もノイローゼで入院する。殺人者の少年は捕まらないと確信するが、友人からカマをかけられ…「漕げよ、マイケル」の8編からなる短編集です。

 犯罪小説短編集とあるように、明らかな犯罪からいたずらすれすれのものまで様々な題材からなる短編集です。作者お得意の幻想小説的な部分もあり、そこのところでも楽しめます。やっぱり私は「蜜の犬」が好きです。子供の残酷さが克明に描かれていて。悪びれもないところがまた恐ろしい。無邪気さともいうのかな。犯罪者よりも少年の無邪気さの方がはるかに怖くて冷たいのかもしれない。「トマト・ゲーム」もそういう意味では少女の潔癖さがまざまざと書かれていてむごたらしい。再会したあとも女のいやらしさ爆発で後味そんなに良くないです。

 そう考えるとこの作品に出てくる人物は皆自分のことしか考えていない人間ばかりな気がして驚きます。こんなに社会ってドライというか自分本位になれるのかな〜としみじみ思いました。幻想文学ってどっぷり自分に浸かってなんぼだからこういうものかもしれないですけどね。

 ちなみに、私が好きな「蜜の犬」は故赤江瀑氏に褒められた作品だそうです。赤江瀑好きの人は読んでみてはいかがでしょうか。

 

トマト・ゲーム (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-6) (ハヤカワ文庫JA)

トマト・ゲーム (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-6) (ハヤカワ文庫JA)