熊手かき

読書好きの日常

視覚に訴えるもの 「ラースとその彼女」

 優しい映画ですね。ラースの精神世界にみんなが同調する。人形崇拝を冒涜だという人間もいるけど、すべてはイエスのお導きと受け入れる。心が温かくなった。

 ラースは人と触れ合うと痛みを感じてしまう。だから人との距離をとりがちだ。兄夫婦の家のガレージに住む彼を義姉のカリンは気にして、何かと面倒を見ようとする。ある日の夜、ラースは兄の家を訪ねる。ガレージに女性の客が来たので兄の家に泊めてほしいと。喜ぶ兄夫婦の元にやって来たのはリアルドールだった。弟の狂気に取り乱す2人だが、ラースを助けるためには彼の妄想に話を合わすしかないと言われ渋々受け入れることに。町の人間に事情を話し、ラースの妄想を受け入れてもらう2人。ラースの恋人ビアンカはゆっくり、でも確実に町の一員になっていく…。

 時にシニカルに時に優しくビアンカを受け入れる町の人々が印象的です。例えば髪型を変えるシーン。美容師が「こんな風に切るとといい感じじゃない?」と提案し、同意する友人たち。「でも、切ったら伸びないのよ」の一言でだまりこむ面々。結局ビアンカの髪型は変わるんですけどね。他にもビアンカが1人パーティに赴く場面があるのですが、ラースはその日ゲームをする約束をしていたと怒り出します。予定は冷蔵庫に貼ってあったらしいのですが、ラースは見ていなくて…。恋人なのだからと怒鳴るラースにビアンカは大人の女性なのだと怒る世話人のおばさん。ビアンカの人生なのだとたしなめる姿は本物の人間を相手にしているようで静かに心を打たれました。

 ビアンカといる時間の中、ラースには気になる女性が現れます。元々存在していたのに意識していなかった相手。彼女を意識し始めた故にある結末が訪れるのですが、それは観てのお楽しみ。ラースが大人になるための通過儀礼としてどうしても必要だったビアンカとの時間。それはラースが人を信じるために、受け入れるために必要だった時間なのかもしれません。心が臆病になった時にまた観たい映画です。