熊手かき

読書好きの日常

視覚に訴えるもの 「人生は小説より奇なり」

 たまたま予告編を観た。結婚式を挙げた2人の男、ジョージとベン。中年と老年の2人は39年間連れ添っている。誰よりもしあわせで輝かしい日。でも、それは長くは続かない。ジョージが仕事を失ったからだ。家を売りに出すことになり、住むところを失った2人はそれぞれ別々の家に居候することになる。迫り来る不動産問題、職探し、年金問題。2人は現実に心くじけそうになりながらもお互いへの愛情を胸に毎日を過ごすのだった。コメディなのかと思ったんです。面白そう!純粋にそれだけの理由で映画館に足を運んでみました。

 バカだった、私はバカだ。こんなにすばらしい愛の物語をコメディだと思うなんて。結婚式の日、2人はしあわせそうに歌っている。祝福してくれるたくさんの人。そこには笑顔しかない。たとえ同性同士と言えど、愛し合う2人の姿はとても自然で輝いていた。ところが、ジョージが働いていた学校がキリスト教系だったばかりに、2人の結婚に影がよぎる。それから2人からあの満面の笑みは消えてしまう。2人は大人だ。どうしようもない現実を、受け入れざるを得ない事実をきちんと受け止める。離れて遠慮しながら暮らす日々はどれほど苦痛だったろう。途中ジョージがベンの居候先にやってきて泣くシーンがあるのですが、たまらなく切ない。一緒にいられない、共に眠れない。当たり前だったことができなくなった2人。その日だけは同じベットで眠ることができたけれど、それがどれだけしあわせか2人は強く噛み締めたんだろう。運よく部屋を見つけたものの、ラストは衝撃的だった。これは書けません、ネタバレなので。あったんだ、このラストへ向かう振りは。でも、その前のシーン、2人が結婚式の時と同じようにしあわせそうで。久しぶりに心の底から笑う2人を見てとても幸せな気分になった。だからなおさら、その結末は切ない。
 ベンの居候先の甥っ子の息子ジョーイ。彼に本当の愛を知っているかと問うベン。1度だけ愛に触れかけたというジョーイが最後に一緒にいる少女はその相手かな?一番多感な時、純粋な愛情を目の前にしたジョーイはこの先どうなるんだろうな。
 明らかな愛情表現より、そっと手をつなぐシーンや見つめあうシーンがたまらなかった。2人の愛情の深さがにじみ出るような気がして。一緒にいられることのしあわせを強く教えてもらえた。2人の愛情はとても静かだ。なのに、お互いしかいないという情熱も伝わってくる。本当に不思議でたまらなかった。39年間連れ添うとそういう境地に行き着けるのだろうか?5年しか連れ添っていない私には未だ分からない。でも、観終わった後たまらなく旦那に会いたくなった。仕事中の旦那に電話をかけて「すごく素敵な映画だったよ」と伝えた。「よかったね〜」と返してくれた旦那は仕事中だからとすぐに電話を切った。けど、本当に伝えたかったのはそれだけじゃない。人を愛するしあわせと美しさ。特別な何かなんて必要ない。ただ存在してくれることの大切さ。この映画に詰まったたくさんの言葉にならないあれこれを伝えたかった。一緒に観て欲しかった。今は心の底からそう思う。そしてどう思ったか伝えあいたかった。あの日、幸せそうに笑い合った2人のように…。