熊手かき

読書好きの日常

書を読むということ 「ジグソーマン」

 読了。確かに劇薬だけど、好みのタイプではなかったかな。想像を遥かに超しちゃって普通にサイエンスホラーとして読んでました。頭の中で映像にもなりにくいくらい突き抜けた。私が劇薬として好きなのは「小児性愛者」とか「城の中のイギリス人」とかで理解不能な現実とか妄想やらの方みたいです。「隣の家の少女」だけは買ったけど読んでない。あれは普通に劇薬そうだからまだ踏ん切りつきません。「ネクロフィリア」は買ったけど文学的でまた違った意味で劇薬になりきれなかった。私の中の最高の劇薬書は「小児性愛者」だな。

 妻と子を交通事故で亡くし、残ったもう1人の子とも絶縁したホームレス、マイク。自分が子供にできることは保険金を残すことだけだ。自殺を決め、列車を待つだけのマイクの元にとある男が訪れる。右腕を売ってくれたら大金を支払う。マイクは子供とやり直すためその提案に乗るのだが、それが悪夢の始まりだった。

 マイクの人生がジェットコースター並みに激しくて次に何が待つのか妙に楽しみになってきてしまいました。平凡でちっぽけだった男が目を覚ますごとに非現実的な状態になっていく。絶望の中にあってもくそ!と諦めなかったマイクは本当はすごく強い男だったのでしょうね。意外と冷静だし。怒りのパワーともいうのかな?普通はもっと早くに正気を失ってもおかしくないのに負けん気の強さで一本勝ち。でも悲しいのは子供のために狂気に加担するしかなかったりはまり込んだりしてしまう親心。作中であの人が死んだシーンはマイクじゃなくても悲しかった。この作品の唯一の良心だったから。

 医学の進歩は目覚ましい。倫理的な面はあるけど、この本の内容が現実になる日もいずれは来るかもしれない。そう思うと少し怖い。ならば、映画「アイランド」や「私を離さないで」の世界のほうがまだ真っ当な気さえする。どっちも不快だけどね。犠牲という意味では圧倒的に「ジグソーマン」の世界が勝ってるから。でもどうなんだろう。両方の技術が可能になったとしたら。そして自分がその技術を必要としていたら。絶対に飛びつかないとも言えない気もする。自分は弱い人間なんです。

 

ジグソーマン (扶桑社ミステリー)

ジグソーマン (扶桑社ミステリー)